はじめに:遺言が“あるかないか”で、ここまで違う
「うちは家族仲がいいから大丈夫」
「大した財産もないし、もめるほどでもない」
そう思って遺言を書かずにいると、思わぬ“争族(そうぞく)”に発展してしまうケースが後を絶ちません。
実際、家庭裁判所に持ち込まれる相続の調停・審判のうち、約8割が遺産額5,000万円未満の案件。
つまり、「財産が少ないからこそもめやすい」現実があるのです。
今回は、遺言が「ある場合」と「ない場合」でどんな違いが起こるのか、実際の事例をもとに見ていきましょう。
※今回の事例は、あくまで分かりやすさを重視し、遺言内容は簡易に記載しております。
ケース①:相続人が複数いる → 遺言がないと“分け方”でもめる
【遺言がない場合】
父が亡くなり、遺産は預金1,500万円と自宅。
法定相続人は長男・長女・次男の3人。
誰がどの財産をどう受け取るかの協議が必要になりますが…
- 「実家は長男が相続するべき」
- 「いや、売却して3等分するべきだ」
- 「介護していたのは私だから多く受け取る権利がある」
感情論が絡み、話がまとまらずに数年がかりの調停へ。
最終的に兄妹の関係が壊れてしまった。
✅【遺言がある場合】
「自宅は長男に相続させる。」
「預金は750万円ずつ長女・次男に相続させる」
といった旨の具体的な分け方が記載された遺言があれば、争いの余地が少なくなります。
→ 分け方をあらかじめ“親の意志”として明示しておくことが、最大の予防策です。
ケース②:特定の人に多く遺したい → 遺言がないと“法定割合”に従うしかない
【遺言がない場合】
内縁の妻と20年暮らしていた男性が突然他界。
子どもはおらず、法定相続人は実家の兄。
しかし、内縁の妻には一切の法定相続権がないため、何も受け取れない。
兄がすべての遺産を相続することに。
結果、長年支え合ったパートナーが住む家を失い、生活が一変してしまった。
✅【遺言がある場合】
「内縁の妻〇〇に、預金と自宅をすべて遺贈する」
というように書いておけば、血縁以外の人にも意思をもって財産を託すことができます。
→ 法定相続人でない人を守りたいときは、遺言が絶対に必要です。
ケース③:家族関係が複雑 → 遺言がないと“想定外の人”に相続されることも
再婚・事実婚・非嫡出子(認知した子)など、現代では家族の形も多様です。
【遺言がない場合】
前妻との子と、後妻との子がいる男性が亡くなった場合、どちらの子にも平等に法定相続権が発生します。
後妻家族が「前妻の子とは疎遠だったのに、いきなり財産を主張された」と戸惑うことも。
✅【遺言がある場合】
・どの子にどれくらい遺すのか
・再婚相手にどこまで配慮するか
・相続に関して「特定の人に配慮したい」事情があるかどうか
こうした複雑な家庭事情も、遺言にきちんと明記すれば意志として通ります。
→ 家族構成に変化があったら、その都度、遺言も見直すことが大切です。
遺言があると、家族に「余計な苦労」をかけずにすむ
遺言がないことで生じるのは、「争い」だけではありません。
家族が苦労するのは、むしろ手続きの煩雑さ・時間・精神的な負担です。
- 不動産の名義変更
- 銀行口座の凍結解除
- 相続人調査
- 相続税の申告期限
これらは、遺言がきちんとあるだけで回避・簡略化できることが少なくありません。
おわりに:「たった一枚」が未来を変える
遺言は「書くか書かないか」で、家族のその後が大きく変わります。
法定相続は“機械的”なもの。
あなたの想いや感情は、遺言というカタチでしか残せません。