はじめに:「ちゃんと書いたつもり」が一番危ない?
「遺言書って、自分で自由に書いてもいいんですよね?」
「ネットで見たテンプレートを参考に書きました」
「念のため書いておいたけど、内容まではよく覚えていません」
──これらは、実際にトラブルにつながりやすい遺言書の“典型的な始まり”です。
遺言書は法的に有効であって初めて、希望どおりの相続を実現できるもの。
しかし、形式や内容に不備があると無効になったり、
逆に遺族間の対立を生んだりすることもあります。
今回は、実務でよく見られる遺言書のNG例とその対策を解説します。
NG①:日付や署名が抜けている
【よくあるケース】
「2024年○月吉日」などと書いてしまい、具体的な日付が不明なケース。
また、署名・押印が抜けていたり、名前が不完全なことも。
【なぜNG?】
→ 自筆証書遺言は「日付・署名・全文自筆」が必須要件。
どれかが欠けると無効になります。
【対策】
✅ 「2025年5月15日」のように具体的な年月日を明記する。
✅ 本人の署名をフルネームで記載し、押印もしておく。
📌※訂正や追記にもルールがあるため、修正には注意が必要です。
NG②:財産の内容や所在が曖昧
【よくあるケース】
「預金は長男に」「家は次男に」など、銀行名や口座番号・不動産の詳細が記載されていない。
【なぜNG?】
→ 解釈の余地があるため、相続人間で揉める原因になります。
最悪の場合、「無効」とされて希望どおりになりません。
【対策】
✅ 銀行名・支店名・口座番号を明確に書く。
✅ 不動産は登記簿に準じた正式な表記を使う(例:「○○市○○町○丁目×番地×」など)。
✅ 記載の際には、財産目録を添付するとより安全です。
NG③:分け方が極端で不公平感を生む
【よくあるケース】
全財産を1人の子どもに集中して渡す内容(例:「すべてを長男に相続させる」など)。
残りの家族が蚊帳の外になるケース。
【なぜNG?】
→ 他の相続人が「遺留分侵害額請求」を行うことで、遺言の通りに分配されないことがあります。
関係悪化・訴訟リスクにもつながります。
【対策】
✅ 相続人の立場や感情も考慮し、「遺留分」への配慮を忘れずに。
✅ 不公平に見える配分をしたい場合は、「なぜそのようにしたか」理由を書き添えるのも有効。
✅ 必要に応じて専門家に相談し、トラブルを回避しましょう。
NG④:感情的・抽象的な表現に偏っている
【よくあるケース】
「長男は親不孝者なので一切の財産をやらない」
「○○には裏切られた」など、恨みや怒りの感情が前面に出ている遺言。
【なぜNG?】
→ 無効にはならないものの、遺族間の感情対立を助長し、無用な混乱を生むおそれがあります。
【対策】
✅ 「なぜこのように分けたのか」は冷静かつ客観的に説明。
✅ 感情的な言葉よりも、「経済的に苦労していた」「介護を一手に引き受けてくれた」など具体的理由を。
✅ 必要なら、別紙にメッセージを添えるという方法もおすすめ。
NG⑤:自筆証書遺言を誰にも伝えていない・見つからない
【よくあるケース】
本人が自宅に保管していたものの、誰にも伝えておらず、相続開始後に発見されなかった。
または破棄・改ざんされた可能性も。
【なぜNG?】
→ 発見されなければ、遺言がなかったことと同じ扱いに。
争族や国庫帰属の原因にもなります。
【対策】
✅ 信頼できる人に保管場所を伝える。
✅ 2020年から開始された「自筆証書遺言の法務局保管制度」を利用するのも有効。
✅ 公正証書遺言であれば、公証役場で保管されるため安全性が高まります。
正しい遺言のための“3つの心得”
- 法律にのっとった形式で書くこと
→ 自筆 or 公正証書など、それぞれの要件を守る。 - 具体的に書くこと
→ 誰に、何を、どう渡すかを明確に。あいまいさはトラブルのもと。 - 定期的に見直すこと
→ 家族関係や財産内容は変わるもの。3〜5年に1度の確認がおすすめです。
まとめ:「書けば安心」ではなく、「正しく書いてこそ安心」
遺言書は、書くだけで安心するものではありません。
むしろ、書き方を間違えると、かえって“争いの火種”になることもあります。
✅ 書くなら「今」、
✅ 書くなら「正しく」、
✅ 書くなら「誰かのために」
その視点を大切にして、あなたらしい遺言書づくりを始めましょう。